小高い丘の上に少女がひとり、立っていました。かがやくブロンドのおさげと、白いワンピースの裾を風になびかせながら、遠くを見ていました。空は青く、地はどこまでもあおあおとした緑で、それ以外のものは見えない不思議な場所でした。何を思うでもなくた…
「ねえ、きれいなものを言い合いっこしてみようよ」 「きれいなもの?」 「そう。たとえば、海辺に落ちてるいろんな色のシーグラス」 「うーん、じゃあ、金木犀が散ってじゅうたんみたいに一面黄色い地面とか」 「いいね。その場所の香りもきれい」 「あっ、…
Googleで「死にたい」と検索すると相談ダイヤルが表示される。 では「生きていたくない」だとどうか。 結果は同じだった。 打ち込んだ当人としては全く違うから、言葉は難しいと思う。側から見ればこの精神状態は同じであろうか。Googleでなく人間から見ても…
この頃、文章を書く仕事が増えた。 お偉いがたに読まれるべく書くものから、平日昼間にカフェで駄弁っているような女性らを想定したものなど少し幅がある。予期せず始まった仕事がほとんどで慣れないし、生身の自分の人格がブレていやしないか少し心配になる…
中華が食べたい。 深夜2時、夜勤の休憩時間、自販機にガコッと音をたてて落ちた缶コーヒーに手を伸ばしながらふと思った。プラスティック製の透明な蓋を持ち上げたその手をするりと隙間から滑り込ませ、手探りで缶を掴む。手袋越しにその温度が伝わり、手の…
この間「月が箸で猫を食べる」というこの一文からインスピレーションを受けて ちょろっと文章を書いてみましたが、 高校時代文芸部にて詩作に没頭していたという部内の友人にこの一文を伝えたところ、 いいね。きっと月光がふたつの筋になって、すっとさ、猫…
「ちきう、きれいね」今夜は十五夜、B地区はたいへんな賑わいだ。子供も大人もみんな集まって暗くて明るい空を見上げる。月に1度の宴に並ぶのは、美味しいご飯に、楽しい音楽。飲めや歌えや、それでいて乱痴気どんちき騒ぎではなく、お空の明かりのもとでし…